【短距離走に必要な筋肉はどこか】
走るのに必要な筋肉は、実際に短距離走を繰り返していくうちにも徐々についていきますが、上位の選手に追いつきたいならそれだけでは不十分です。
日頃の練習に筋トレを取り入れて、短距離走に適した体づくりを行っていくのが適切でしょう。
しかし、筋トレを行う「目的」はしっかり頭に焼き付けておかなければなりません。
ボディビルダーのように全身をくまなく鍛えてしまうと、体が重くなって記録が落ちてしまう可能性があるからです。
筋トレを行うときには短距離走に必要な筋肉だけを鍛えるように意識することで、短距離走選手特有の軽くしなやかな体を作り上げることができるのです。
今回は、短距離走選手が鍛えておくべき代表的な筋肉を解説していきましょう。
厳密に言うと他にも鍛えるべき筋肉はありますが、まずは以下の箇所を意識して鍛えてみるとよいでしょう。
【@ハムストリングス】
ハムストリングスは、太ももの裏側にある大きな筋肉です。
ヒザを曲げるために必要不可欠な筋肉であり、足の付け根から太ももを後方に振る動きにもハムストリングスが使われます。
日常生活における「歩く」「走る」「しゃがむ」「立つ」という動作をはじめとして、ヒザを曲げる動作全てにとって重要な筋肉であるといえます。
ヒザを曲げるために必要な筋肉なのですから、短距離走にも当然ハムストリングスの働きが影響します。
鍛え上げられたハムストリングスは地面を蹴った足を前に振り出すとき、またはヒザ下にブレーキをかける瞬間などに効果を発揮します。
一流の短距離走選手の太ももの裏側が大きく発達しているのは、こうした動きを繰り返した結果ハムストリングスが肥大化したことによるものなのです。
【A腸腰筋】
腸腰筋は、骨盤から大腿骨の周辺についている筋肉の総称です。
厳密に言うと、
- 腸骨筋
- 大腰筋
- 小腰筋
の3つの筋肉をまとめたものをそう呼びます。
腸腰筋の主な働きは「足の引き上げ」で、短距離走においては接地した足を瞬時に腿上げするために役立ちます。
一流の短距離走選手のなかには、
- 腸腰筋を「足を速くするために最も重要な筋肉」と考えている
方も少なくありません。
腸腰筋は上半身と下半身を繋ぐ筋肉でもあるため、ここの筋力が弱いとまともに足を動かすことすらままならないからです。
しかし筋トレを用いて腸腰筋を鍛えておけば、より素早く無駄のない足の上げ下げが可能になることでしょう。
【B上腕二頭筋】
上腕二頭筋は、肩とヒジの間を繋いでいる腕の筋肉です。
短距離走を速くするためには足の筋肉だけ鍛えていればいいと思ってしまう方もいるでしょうが、それは間違いです。
人体はすべて繋がっており、上半身と下半身の筋力バランスが悪ければ安定した走りを実現することはできません。
- 上腕二頭筋を鍛えることで、短距離走における「踏み込む力」を増大する効果
が期待できます。
踏み込む力が強くなれば地面からの反発力が効率的に得られるようになり、自然と歩幅も広がるためタイムも縮めやすくなるでしょう。
また、腕の筋肉が強化されることで足の回転数そのものが上がるという効果も期待できます。
【C胸筋】
胸筋は、その名の通り胸についている筋肉です。
日常生活においては体の前方にある者を抱える動きや、うつ伏せの状態から体を起こす動作などで使われています。
上腕二頭筋と同じく短距離走には不必要な筋肉だと勘違いされがちですが、胸筋もまた短距離走のタイムを縮めるために役立つ筋肉のひとつです。
わかりやすい違いで例えると、短距離走では通常「腕を振る」という動作が重要視されていますよね。
腕を速く振るとピッチが上がり、足を出す速さも自然と向上するといわれています。
ここまで言えば、
- 腕を速く振るために胸筋が必要
だということがおわかりいただけるでしょう。
さらに胸筋には上腕二頭筋の動きをサポートする働きもあるため、筋トレでは上腕二頭筋と同時に鍛えておくと効果が上がりやすいのも特徴です。
【D大殿筋】
大殿筋は、お尻についている大きな筋肉です。
単一筋としては人間の体のなかで最大の面積を誇る筋肉でもあり、大殿筋がなければ人間はまともに立つことさえできません。
大殿筋はハムストリングスと共同して、股関節の曲げ伸ばしや、股関節の外旋・外転といった動きにも役立ちます。
つまり
- 大殿筋の働きが、股関節の動きをコントロールしている
といっても過言ではないわけです。
優秀な短距離走選手の大殿筋は例外なく発達しています。
無駄のない走りを実現するためには、股関節の動きの下地になる大殿筋を鍛え上げておくことが必須だといえるのです。
【E大腿四頭筋】
大腿四頭筋は、太ももについている筋肉です。
ハムストリングスの逆側に位置する筋肉であり、ハムストリングスと同様に短距離走だけでなく全てのスポーツに重要な部位でもあります。
厳密に言うとひとつの筋肉ではなく、
- 大腿直筋
- 外側広筋
- 内側広筋
- 中間広筋
の4つの筋肉が総称して大腿四頭筋と呼ばれます。
大腿四頭筋の主な役割は、ヒザの曲げ伸ばしです。
しかし大腿四頭筋のうちのひとつ、大腿直筋に関しては股関節の動きにも関与しています。
大腿直筋は、腸腰筋や縫工筋といった足の動きにとって重要な筋肉と共に、股関節の屈曲動作にも貢献している重要な筋肉でもあるのです。
【短距離走で速く走るための筋トレメニュー】
【@デッドリフト】
デッドリフトは、大腿四頭筋やハムストリングスを鍛えるために効果的な筋トレ方法です。
さらに背筋全体を鍛えることにも寄与するため、短距離走に必要な筋肉をバランスよく鍛えるのにもってこいです。
短距離走において、腕をしっかり振ることは足のピッチを速くすることに役立ちます。
注意点としては、デッドリフトは腰への負担が大きいということです。
いきなり重いバーベルではじめると怪我に繋がる恐れがありますので、無理せず軽いバーベルからはじめましょう。
ボディビルがしたいわけではありませんので、筋肉を大きくするというよりは瞬発力を上げるイメージで行っていきます。
1.バーベルの手前に立ち、足を肩幅に開いて立つ
2.手は肩幅よりも少し広いくらいにして、落とさないようしっかりとバーを握る
3.腰に負担をかけないよう、背中は丸めないように一直線をキープする
4.大きく息を吸ってから息を止め、腰をそらしたままヒザを伸ばす
5.バーがヒザの位置を超えたあたりで完全に上体を起こす
6.ヒザが伸び切って直立した状態になったら、肩甲骨を内側に寄せる
7.ゆっくりと息を吐き、バーベルを少しづつ下ろしていく
8.ここまでの一連動作を、1セット5回まで繰り返す
【Aレッグプレス】
レッグプレスは、フットプレートと呼ばれるトレーニング器具を使った筋トレ方法です。
専用の器具が必要になるので自宅でのトレーニングとしては敷居が高めですが、フットプレートはわりとポピュラーなトレーニング器具なので、ジムに行けば簡単に見つかるはずです。
レッグプレスは、主に足回りの筋肉全体を鍛えることに役立つトレーニングです。
大腿四頭筋・大殿筋・ハムストリングスなどを効率よく鍛えることができるため、一流のアスリートにも日頃からレッグプレスを行っている選手が多いです。
効果としてはスクワットに近いのですが、スクワットに比べると難易度は低めです。
スクワットは正しい姿勢で行えるようになるまでに練習が必要ですが、レッグプレスは昨日今日トレーニングを始めたばかりの選手でも気軽に行えるでしょう。
1.フットプレートのシートに深く座る
2.足を肩幅くらいに開いてボードに乗せる
3.ボードに足を乗せたら、ヒザとつま先が同じ高さになるように椅子の高さを調整する
4.ボードに足の裏全体を当てるようにして、つま先だけでなく「足の裏全体」で蹴るように押す
5.足を伸ばしきるのではなく、8割くらいまで押したところで止める
6.ほんの一瞬だけ足を止め、それからゆっくりと足を曲げてボードを戻す
7.息を吐きながら押す、息を吸いながら戻すことを意識して一連の動作を繰り返す
8.ここまでの一連動作を、1セット10回まで繰り返す
【Bノーマルプッシュアップ】
ノーマルプッシュアップは、いわゆる「腕立て伏せ」のことです。
最もポピュラーな自重トレーニングのひとつなので、すでに日頃のトレーニングに取り入れているという短距離走選手も多いのではないでしょうか。
特別なトレーニング器具を必要としないので、思い立ったその日から練習に取り入れられるのが嬉しいですね。
ノーマルプッシュアップで鍛えられるのは、大胸筋・上腕三頭筋・三角筋前部など。
短距離走においては、主に腕の振りに寄与する部分の筋肉をバランスよく鍛えることができます。
ノーマルプッシュアップのコツは、頭からかかとまで一直線を保つことです。
慣れていない人はお尻が上がってへの字になってしまったり、ヒザが曲がって地面スレスレになってしまったりします。
体を一直線に保たないとトレーニングの効果も半減してしまいますので、体を一直線に保つことは忘れないようにしましょう。
1.腕を肩幅よりも少しだけ広くして床につける
2.足をまっすぐに伸ばし、つま先だけを床につけるようにして、手のひらとつま先だけを接地させて体を支える
3.首から足までが一直線になるよう、腹筋に力を入れて姿勢をキープする
4.真下を向かず、目線は顔から1メートルほど前に向ける意識をもつ
5.フォームが整ったら、ヒジを曲げながらゆっくりと体を沈めていく
6.体全体が床スレスレにまで下がったら、そのまま1秒間体勢をキープする
7.腕に力を入れて体を上げ、元の位置に戻ったら1秒間キープする
8.ここまでの一連動作を、1セット20回まで繰り返す
【Cジャンピングスクワット】
スクワットは昔から足の筋力を上げるためのトレーニング法として知られています。
しかしノーマルスクワットは正しい姿勢で行うためにコツがいることや、ヒザや腰を痛めやすいということでデメリットも多いです。
そこで短距離走選手にオススメしたいのがジャンピングスクワットです。
ジャンピングスクワットは、腸腰筋やハムストリングスなどを鍛えるのに役立ちます。
足のなかでも大きな筋肉を効率良く鍛えられる上、バランスを取っているうちに自然と体幹まで鍛えられるという一石二鳥の筋トレ方法です。
加えて、ジャンピングスクワットはノーマルスクワットに比べてヒザへの負担が少ないというのも魅力です。
ノーマルスクワットには無いしゃがみ込む動作で衝撃が分散されるため、怪我のリスクも少なくよりしなやかな筋力を得ることが可能なのです。
最初はバランスを取るのに少々苦戦するかもしれませんが、慣れればノーマルスクワットよりもむしろ簡単な筋トレ方法です。
1.肩幅よりも少しだけ広めに足を開く
2.手は肩からまっすぐ前方に出すようにしてキープする
3.腰に負担がかからないよう、背筋はピンと伸ばしておく
4.足を曲げるというより腰を下げるようなイメージでしゃがむ
5.ふくらはぎと太ももの角度が90度になる位置まで腰を落とす
6.一番下まで下がったら、つま先で地面を押すようにして跳ね上がる
7.ジャンプしながら両手を上に振り上げ、その反動を利用して高く跳ねる
8.地面に降りてきたらセットポジションを作り直す
9.ここまでの一連動作を、1セット20回まで繰り返す
ジャンピングスクワットの詳しいやり方はこちらを参考にしてみてください。
【Dグルートハムレイズ】
グルートハムレイズは、トレーニング用のベンチを使った筋トレ方法です。
海外の短距離走選手に人気のトレーニング法で、主にハムストリングスや大殿筋の強化に役立ちます。
ベンチが必要にはなりますが、基本的には自重トレーニングの一種です。
自分の上半身を重りにして、足の力で体を起こすようなイメージで鍛えていきましょう。
動作としては背筋運動によく似ていますが、曲げ伸ばしの軸が腰ではなく「ヒザ」になっているという部分に大きな違いがあります。
グルートハムレイズは日常生活では鍛えにくい筋肉の強化に効果的ですが、ヒザへの負担が大きいという点に留意しましょう。
初めてだとまともに体を起こすこともできないと思いますが、無理をせず少しづつ慣れていってください。
1.グルートハムベンチか、ローマンチェアにうつ伏せで寝る
2.パッドの部分には股関節ではなく、太ももの上部が乗るようにする
3.かかとは足を支えるローラーの下にあてる
4.上体と太ももの角度が120度になるくらいまで上体を下ろしていく
5.上体が床と平行になるまで、腹筋を使って体を起こす
6.上体が床と垂直になるまで、ヒザを曲げる力を使って体を起こす
7.ゆっくりと体を倒し、セットポジションを作り直す
8.ここまでの一連動作を、1セット10回まで繰り返す
ウエイトトレーニングでアップした筋力を活かす筋トレ
これらのウエイトトレーニングで短距離走に必要な筋力をアップさせたら、それを走りに活かすトレーニングが必要です。
いくら努力して筋力アップしても、走りに活かされなければ、それは無駄な努力です。
そこでおすすめなのが
- ワンレッグデッドリフト
です。
詳しいやり方はこちらをご覧ください。
短距離選手のアリエティ選手のトレーニング動画
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